特集記事 2022年11月号
私たちにとってもっとも身近な素材、コットンについて知ってほしいこと
1. コットンとは?
綿花、コットン。
私たちの財団の名称には〝コットン〟という言葉が含まれています。洋服やタオルなど、日常の生活に欠かせないもっとも身近な存在でありながら、その原料がどのように栽培されて製品になり、私たちのもとに届くのか。多くの方が知らないのではないでしょうか。
コットンは世界の80以上の国で栽培されており、農地面積全体の約2.5%を占めています。世界におけるコットンの総生産量のうち、インドと中国の生産量は、全体のうち50%を占めており、75%がアメリカとブラジルを含めた上位4か国で収穫されています(USDA, 2022)。
現在、約1億人の人々がインドを含めた開発途上国や中国の農村部といった所得が低い地域で生活しており、コットン栽培を収入源としています。また、それらの国々では、約3億5,000万人が、コットンの配送、ジニングなど綿花産業に従事していると推測されています(FAIRTRADE foundation, n.d.)。
コットン収穫方法の違いについて、この4か国の間には大きな違いがあります。
アメリカ、ブラジル、中国(新疆ウイグル自治区)では、農業の大規模化や高度な機械化が進んでいます。農家一人当たりの作付面積は200ヘクタールとかなりの大規模で、コットン栽培・収穫は大型の収穫機や種蒔機が導入されています。一方、インドやその他の後発開発途上国(LDC)でおこなわれる綿花栽培は労働集約型となっており、農村部に居住するコットン栽培農家のほとんどの平均所有農地が2ヘクタール以下と小規模で、各農家の手作業で行われています。このように現在のコットン産業は、機械化された大規模農業と、労働力に依存する小規模零細農業で大きく二極化された状況にあります。
大型の収穫機(アメリカ)
2. 収穫量の多いインドでのコットン栽培の特徴
私たちPEACE BY PEACE COTTONが支援している農家は、インドの農村部で生活し、コットン栽培で生計を立てています。ここではインドでの綿花栽培の実態についてご紹介します。
インドでは乾季が終わり一雨降った時期、主に6月上旬ころに種まきをはじめます。インドでの綿花栽培は灌漑設備のない地域が多く、天候不順や昨今の気候変動に左右されることが多くあります。2020年は雨季のはじまりが一ヵ月ほど遅れ、さらにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大に直面してしまい、大きな打撃を受けました。
種蒔き前には牛を使って開墾し、非遺伝子組み換え種の場合は、一カ所に種を3粒ほど蒔いて発芽後に間引きます。インドは農業従事人口が多く一人当たりの耕作面積が広くないので、除草作業・除虫作業は手作業でも比較的容易に行うことができます。品種によりますが、8月頃に花が咲き、10月末から11月中旬にかけて収穫期を迎えます。花が枯れて実が開いた状態を確認しながら、3~4回に分けて収穫作業をしていきます。綿花とは言いますが、綿の繊維は花ではなく種を覆う部分を使用します。
収穫期のコットン
このように、私たちが日常的に着る服に使われているコットンは一年間をとおして栽培・収穫されます。しかし、栽培する農家たちをとりまく環境が問題となっているのです。
インドでは、1990年代からコットンは換金作物(※市場で販売することを目的とした農作物)として栽培が始まりました。食用ではない綿花の栽培では、収穫を効率化させるために、多くの有毒な化学農薬・除草剤・化学肥料が使用されてきました。それによって綿花栽培が行われている現地では多くの農民が農薬被害と貧困に苛まれてきたのです。
3. 貧困と環境被害への解決策としてのオーガニックコットン
そうした生産者の抱える問題へのアプローチとしてオーガニック農業が注目されています。
国内外でオーガニック農業推進のために活動しているIFOAM(=International Federation of Organic Agriculture Movements Organics International、国際有機農業運動連盟)によると、オーガニック農業はこのように定義されています。
オーガニック農業とは
オーガニック農業は、豊かな土壌、多様な生態系、そして人々の健康を維持するための生産システムです。そのいずれにも悪影響を及ぼすものを使用せず、生態学的プロセス、生物多様性と環境に適した循環システムと強く結びついています。そして、伝統、イノベーション、科学を組み合わせ、同じ環境を分かち合うすべての存在をもたらし、公正な関係と良質な生活を促進するものです。
筆者訳、IFOAM General Assembly(2008)
この定義が示すように、農業におけるオーガニック=有機栽培は、そもそも地球環境とそこで働く人たちを有害な化学農薬や化学肥料から守るという農業です。製品を使用する人の肌や健康に良いという「自分志向」のものではありません。
OCSロゴ
紡績の原料、原綿におけるオーガニックは、各国の有機農業基準をクリアした農業生産物であることが義務付けられています。有機農業基準には、遺伝子組み換え種の使用禁止、化学農薬・化学肥料の使用制限と3年以上の継続的な有機農業審査合格(未開墾地の場合は2年の国もあります)などが義務付けられています。繊維製品としてのオーガニックコットンは、国や地域によって国際認証であるGOTS(Global Organic Textile Standard)※¹、 OCS(Organic 100 Content Standard)※²といった第三者認証を製品で取得した商品のみがオーガニックコットンとして販売できる国もあります。
これらの認証をうけることで収穫されたコットンには市場での買い取り価格にプレミアム価格が上乗せされます。化学薬品や非遺伝子組み換え種子を使わないオーガニックコットンを栽培することで、過剰で不適切な化学薬品の使用で砂漠化してしまった耕作地や、水資源を汚染・枯渇させるような農業を止め、農業従事者の収入を増加させるだけでなく、近隣住民、特に畑に遊びに入ってしまう子どもにとって、安全な場所を確保するという意味でも、有機農業は有効な手段です。
※¹ 繊維商品がオーガニックであることを保証する国際認証。化学薬品や遺伝子組み換え種子不使用であることに加えて、環境保護や生産者の健康といった社会的規範を守ることが認証基準とされている。
※² 原料から最終製品までのすべての工程が追跡可能であり、その商品がオーガニックであることを保証する認証。
こちらの記事では、オーガニックコットン栽培を推進している
私たちの現地パートナー『チェトナ・オーガニック』について紹介しています。
- FAIRTRADE FOUNDATION(n.d.)COTTON FARMERS. Retrieved from
https://www.fairtrade.org.uk/farmers-and-workers/cotton/ (Accessed on 2022/10/29) - IFOAM (n.d.) Definition of Organic Agriculture. Retrieved from
https://www.ifoam.bio/why-organic/organic-landmarks/definition-organic (Accessed on 2022/10/29) - USDA(2022)Cotton Sector at a Glance. Retrieved from
https://www.ers.usda.gov/topics/crops/cotton-and-wool/cotton-sector-at-a-glance/ (Accessed on 2022/11/28)