一般財団法人 PEACE BY PEACE COTTON

特集記事  2022年12月号

2022年の振り返り

みなさまへのご挨拶

一般財団法人PEACE BY PEACE COTTON代表理事の葛西です。いつもたくさんのご支援を寄せてくださっているみなさま、誠にありがとうございます。2020年以降、当財団の活動としては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を鑑み、国内でのインド産オーガニックコットン製品の推進に尽力し、現地とはオンラインでのコミュニケーションを続けておりました。そんななか、11月には3年ぶりにようやく現地を訪問することができ、インドの現地パートナー法人や農家、子どもたちとも顔を合わせることができました。
みなさまから温かい応援をいただき、そのおかげで今年度もインドの綿農家、女性、子どもたちへの支援を継続できております。多くの方々からご支援・ご協力を頂けましたこと、改めて感謝申し上げます。
今月号では、2022年のPEACE BY PEACE COTTONのトピックスを振り返っていきます。

1. 2022年におけるオーガニックコットン市場

新型コロナウイルス感染症が世界的に流行してから約3年が経過しようとしています。このパンデミックは私たちの健康だけではなく、日々の生活や経済活動にも大きな影響を与えてきました。私たちPBP財団が支援しているインド国内の綿花栽培農家とその家族も例外ではなく、彼(女)たちの受けた被害もまた甚大なものでした。

2020年3月時点では、これがどのような病気であるかという情報は十分ではなく、インド政府が発令したロックダウンによって、農家たちへの活動が大きく制限されてしまい、綿の栽培と販売が遅れました。小売りが休業したことに影響受けて、サプライチェーンが機能しないという事態を招きました。それによって、農家たちは十分な収入を得ることができなくなってしまったのです。生活費さえ充分に賄うことができなかったため、現地農家が次の農期に蒔く綿花種子を購入するだけの資金がないと、現地パートナー法人「チェトナ・オーガニック(以下、チェトナ)」から報告を受けました。

この事態に対処するために、PBP財団としては、ロックダウンで出稼ぎに行けなくなった農家への生活費支援を行うとともに、チェトナと協同で非遺伝子組み換え種子を配布するための緊急支援を行いました。当初は、いつ収束するかもわからない不安を抱えてはいましたが、生活自体は徐々に戻っていき、今年には農業も通常通りに進めることができるようになりました。

その一方で、オーガニックコットン市場を世界的な視野で見ていくと、インド産オーガニックコットンの関心・需要の高まり、それに伴う価格の高騰が起きていました。コロナウイルス発生の前からアパレル・繊維業界ではサステイナブルブームが巻き起こり、エシカルファッションというものの認知が広がり始めたのも同じタイミングでした。素材としてのオーガニックコットンが、使う人に向けた素材ではなくて、環境問題やサステナビリティに寄与する素材なんだ、といった市場の認知が高まったという面があります。

こうした情勢から、中国の新疆ウイグル自治区で栽培されている新疆棉の問題がクローズアップされました。様々な要因があるため端的には語れませんが、オーガニックコットンの一大生産地である中国の新疆ウイグル自治区での強制労働の問題が明るみになったことで、ヨーロッパやアメリカのファッションブランドの間で新疆棉の使用を中止する動きが広がっていきました。オーガニックコットン製品の多くに新疆綿が使われていたことを背景に、今度は別の産地のオーガニックコットンの価格が常に上昇するということが起きました。

2. 農家に利益が還元される仕組みをつくるために

しかしながら、こうした国際的なオーガニックコットンに対する市場での関心の高まりと、オーガニックコットンの価格の上昇にもかかわらず、これがダイレクトに農家に還元されていないという新たな課題が浮き彫りとなりました。それは、市場でのオーガニックコットンの価格が上がったけれども、農家の収入は増えておらず、生産者ではなく市場側がより多くの利益を得ているのではないか、ということです。

先述した中国以外のオーガニックコットンへの注目も、市場がオーガニックコットンを先物取引のターゲットとして取り扱った結果として値段がつり上がっていったと考えられます。今まで、PBP財団の活動は「インド産のオーガニックコットンを使用した基金付きの製品を販売し、おもにその基金を活用してインドの綿農家の有機農法への転換支援と、農家のこどもたちの就学・復学・奨学支援」を目標としてきました。事業の構想としては、支援地で収穫された綿だけ使って「支援される者」と「支援されない者」を生み出すのではなく、綿農家の自殺・貧困問題というインド全体がかかえる課題解決へ寄与する大きな循環の仕組みを構築するという目的がありました。それがオーガニックコッンの価格を決める市場側の働きが、農家世帯への利益の循環を阻害していることが判明したのです。

今年はこういった市場の構造が明確となり、農家の有機農法への転換や子どもたちへの教育支援に限らずに、市場側にも視線を向け、いよいよ支援地の綿を使用した糸と製品の開発にも着手していかないと、他のオーガニックコットンとの差別化もできず、市場の値段に惑わされてしまうということを痛感しました。この一連の出来事で、PBP財団のコットンを支援地と消費者をつなげるリアルな循環として流通させていくという目標がより強くなりました。

3. インド オディシャ州現地訪問について

今年11月には私たちの支援地であるインド オディシャ州へ現地訪問をしました。前回は2019年に訪問したため、実に3年ぶりに綿花を栽培する農家や、学校に通う子どもたちの様子を見ることができました。今回の訪問には、現地パートナー法人であるチェトナのArun Ambatipudi代表と対話することで、現在起きていることを現場で感じ、またお互いの今後の活動に関する考えを共有することが最上位の目的にありました。

先ほどのPBP財団が支援するチェトナの農家たちが収穫したコットンを製品化し、流通させていくことに関しては、双方で合意を得られました。しかし、チェトナはずっとNGO(非政府/営利活動法人)として農家のほうに向かって活動してきました。農家を組織化して、農地からのアプローチをしていくことは重要ではあるものの、綿の価格が上昇している昨今の状況では、もともと高いものがさらに高くなってしまいます。消費者側からするとなかなか手の出しにくいものです。さらに、製品の購入が社会倫理上良いものだ、ということだけでは続きません。実際には、収穫される綿の性質や品質の課題、綿を移動するための物流の課題、手摘みであるために製品に混入してしまうコンタミネーション(繊維に含まれるゴミ)などの問題があり、価格に見合うクオリティに近づけるためには越えなければならない様々なハードルがあります。そのため、マーケットの状況を把握して、適正な利益を得つつ生産性を高めていくことが課題になります。

農家とビジネス的な側面をうまくリンクさせていくことに関しては、現地で可能性を感じる変化がありました。それはインターネットの普及です。前回訪問した際には、各家庭にスマートフォンが1台あるかないかといった状況であったのが、個人で所有するようになりつつありました。

また、ファッションに関しても、前回に訪問した時より多くの洋服が広まっていて、現地の人々がおしゃれを楽しんでいることが感じて取れました。これもインターネットにアクセスできるようになり、スマートフォンを経由して様々な情報を入手していることの現れでないかと思っています。

私たちがサブプロジェクトとして行う“Stitch By Stitch”では、参加する女性たちがInstagramのアカウントを持っていて、自分で発信する時代が訪れていました。インターネットで情報を得るだけではなく、InstagramやWhatsAppなどのSNSを用いて、主体的に個人で発信が行われていたことが一番の変化でした。またインドでは12月から5Gが正式に開通する予定で、これからも現地のデジタル化が急速に進んでいくことでしょう。
今まで農村では得られる情報が限られていて、選択肢が乏しかった農家の人々が外の情報に触れられるようになり、地域外、そして国外へのアプローチしている、これは今後何かしらの形で間違いなく影響を及ぼしていくと思います。

これまで多くの部分で「支援する側」「支援される側」という立場でかかわってきましたが、何かを発信しようとしている主体的な個々として、ともに課題に取り組んでいく仲間として、それを受け取っていただく消費者が有機的につなぐことができる仕組みを目指していいかなければなりません。