一般財団法人 PEACE BY PEACE COTTON

2018-2019 Chetna Organic からの活動報告

今年度の活動は、インフラ整備が遅れた辺境にあり、政府の支援も十分に受けられないTelangana州の8地域、Odisha州の6地域でプロジェクトが施行され、累計314の村、14,079世帯の農家が有機農法へ転換しました。農薬を多用する慣行農法から、環境や人体へのリスクを軽減し、綿と穀類による増収を見込める有機栽培への転換支援を拡大しています。農家に経験と知識が蓄積され、生産性が向上しています。

1有機農法への転換支援

これまで、14,079世帯の農家へ対して有機農法転換支援が提供され、10,232世帯が有機農家として認証されました。今年度は、さらに1,000世帯の農家を受け入れ、持続可能な農業実践法(Sustainable Agricultural Practices)の導入を推進しています。

豊かな土壌は、収穫量の増加と大きく関わっています。しかし、農家の知識不足と行政の不適切な方針が、土壌の質を酷く低下させていました。そのため、地域の土壌に適切であり、低コストで行うことができる様々な改善策(土壌改良・土壌再生方法や、ミミズ堆肥、NADEP方式堆肥の作成方法、有機栄養物調整剤の使用方法、バイオマス苗の育成方法)が、チェトナによって農家たちに指導されました。

有機農法の研修の実施と規模の拡大は、より多くの農家の出費を減らし、収入を増加させました。今年度の有機農法の導入で、約1,540トンの有機堆肥と液体肥料が生産され、堆肥は2,715エーカーの農地で使用され、農家が化学肥料や農薬にかけていた1,734,000インドルピー(2018年時点で約270万円相当)分の負担を削減することができました。


土壌サンプル収集

土地を所有しない農家には政府から土地が与えられますが、その土地のほとんどが耕作不可能な状態です。そのため、PBPプロジェクトの下、計30エーカー(約12万平米)の荒れ地を耕作し、地域の農家に分配しました。1エーカー(4,047平米)あたり20~25kgの種子が植えられ、短期間で土壌の質が高まりました。

有機農法の導入による土壌の質の変化を確認するために、毎年土壌テストが行われます。今年は農家から、150の土壌サンプルを収集し、研究所で分析しました。土壌テストの結果を農家と共有することで、有機農法を行うメリットを広く認知してもらいました。今では、農家同士でも有機農法への転換を勧めあっています。


バイオマス苗床

1-1農家の研修と農地見学

チェトナは土壌の質を高める有機農法の導入で、農家の生産力向上と収入増加を見込んでいます。そのため、チェトナは農家支援の一環として、農家たちのミーティング、オリエンテーション、研修の考案と実施を行ってきました。このように有機農法転換支援の影響を広げる人材育成にも注力しています。

研修に関して、農家たちがこれから自立して有機農業を行えるように、トレーナー研修、ファシリテーター研修が実施されました。干ばつや洪水など、実際に農家が直面した問題に基づいて考案されたこの研修は、農業で発生する様々な事象に対応可能です。座学と実地で ①土地の準備 ②土起こし ③種子の収集 ④種子処理 ⑤種植え ⑥間作 ⑦芽かき ⑧畝づくり ⑨除草 ⑩除草準備 ⑪液肥の準備と使用方法を学ぶことができます。今年は110世帯の農家が研修に参加しました。


農家の研修

1-2エコセンター

エコセンターでは、持続可能な農業実践法(SAP)が展示されています。農家たちは農業器具の使用法、土壌の水分調整、雨水の活用法、野菜の栽培、堆肥の使い方や害虫の対策法を学んでいます。土壌の質を高め、農業に効果的な状態を維持することができる有機農法は、多くの農家のモチベーションを高めています。また、有機農業転換に積極的な農家が、自身の学びを共有した結果、周囲の農家たちも持続可能な農業実践法(SAP)を実践するようになりました。

今年の栽培期間中には、1,600世帯の農家がエコセンターを訪れ、その中の755世帯の農家が学んだ技術を自分たちの農地で活かしています。


エコセンターへの見学

1-3CORCC の発展 ※ Chetna Organic Reserarch & Conservation Center

支援地域内ではチェトナ有機農業研究・保全センター(CORCC)が運営されています。センターでは、持続可能な農業実践法(SAP)、穀物と野菜の栽培法や非遺伝子組み換えの綿花種子(Non-GM)の扱い方など、農家たちが有機農法へ転換するのに必要な技術を学ぶことができます。
今年度は、310世帯の農家がセンターに訪れ、農家たちは農業に関する知識を深めました。

また、センターには太陽光を利用した灌漑設備もあります。太陽光発電から得られるエネルギーを水の散布装置に必要な電力として利用し、干ばつが発生した際の対応策となっています。


灌漑設備の整備

1-4シードバンクの設立

過去に政府機関によってハイブリッド種子を用いた農業が推し進められたことで、市場で地域原産の種子が入手困難となってしまった結果、現在いくつかの種が絶滅の危機に瀕しています。そのため、地域原産の種子の増殖と保存を目的としたシードバンクが設立されました。シードバンクでは種子の保存・増殖活動が行われるほか、チェトナが開発した栽培方法のモデルを用いて、綿、野菜、穀物、豆類の栽培も行われました。


地域の種を集める活動

1-5シードメラ(種祭り)と国内イベント

Telangana州とOdisha州で、チェトナはシードメラというお祭りを開きました。シードメラでは、州内の村に住む農家たちとその家族が地域原産の種子を展示し、その種子の保全と増殖活動を広めるために情報共有をしました。できるだけ多くの農家に種子の保存と増殖活動の必要性を認識してもらうために、その種子の背景や、収穫量などを説明するためのオリエンテーションが開かれました。地方自治体と同様の活動を行っているNGOも、この種子の展示会に参加しました。


種の展示

1-6煙の出ないチュラ ※ 英語表記でCHULA ヒンディー語でストーブの意

多くの女性が、家事で煙を浴び続けることで引き起こされる健康被害に苦しんでいます。彼女たちの身体的負担を軽減するために、チュラと呼ばれる煙の出ないストーブ100セットが支給されました。煙の出ないストーブの使用は、木材の使用を抑え、森林伐採を減らすことにもつながります。

チュラの使用により、健康被害による医薬品への出費が減少し、女性の身体的負担だけではなく、農家世帯の経済的な負担も減らすことができました。


チュラ

1-7多様な生産システムの推進

Telangana州とOdisha州に住む小規模零細農家は、綿花栽培以外で副収入を得る活動を行うことで、必要な生活費を得られるようになります。今年度は、裏庭での養鶏と家庭菜園を行うための支援が行われました。この支援は、生活が困窮している農家の生活水準の底上げに寄与しました。 

養鶏

母子家庭である女性50人に自宅の裏庭で養鶏を始められるよう、1人につき25羽、計25セットのニワトリを支給しました。全てのニワトリが健康な状態で、ほとんどのニワトリが卵を産み始めました。現在、各家庭でニワトリの卵と鶏肉が子どもたちの成長に必要な栄養源となっています。


養鶏の様子

家庭菜園

女性が家庭菜園を行えるように、野菜の種、果物と花の苗が支給されました。育てた野菜や果物は家庭で消費するだけではなく、市場で販売することで必要な生活費を得ています。


家庭菜園

1-8転換期間中である農家への創業支援

チェトナは、有機農業への転換に関心を示し、積極的に協力している農家たちが、有機農法に転換できる機会を与えています。有機農家であることを示す証明書や、その他の必要物資が与えられ、今年度は、新たに1,000世帯の農家が有機農法転換支援を受けました。農家たちは、栽培期間前、栽培期間中、収穫期間後に、持続可能な農業実践法(SAP)を学ぶために研修を受け、内部監査・外部監査ともに完了しました。昨年転換1年目であったすべての農家が、転換2年目に突入する予定です。


農家の内部監査

土壌試験

土壌試験は、転換1年目と3年目に実施されます。今年は、転換1年目にある150世帯の農家から土壌サンプルを収集し、土壌の現状を知るために研究所で分析が行われました。結果として、土壌の養分不足が判明し、現在チェトナの技術チームが対策をとっています。転換3年目に再び行われる土壌試験で、農家たちが自身で行ってきた有機農法のメリットを実感できることでしょう。


土壌サンプル収集

2子どもたちの就学・復学・奨学支援

2-1奨学金支援

今年は、教育を継続することが困難である55人の子どもたちに、奨学金を支給しました。奨学金は子どもたちがコンピューター応用技術を勉強したり、農業や教育の学位の取得に必要な授業料に充てられました。


奨学金をうける生徒

2-2職業訓練

服の仕立ての職業訓練を受けた5人の女性たちが、自分たちで商売を始められるように、ミシンを提供しました。彼女たちの家族は綿花農家世帯であり、商売を始めることに強く関心を示していました。しかし経済的な理由で、長い間商売を始めることができない状態でした。PBPによるミシンの提供で、それぞれの女性が自分たちの村で商売を始めることができ、毎月7,500インドルピー(2018年時点で約12,000円相当)を稼ぐことができるようになりました。


ミシンの寄贈

2-3文化展示会

高校生の積極的な行事参加を促すために、校内展示会を開催しました。MAAD活動という自文化を学ぶ課外授業の一環として開かれた発表会で、生徒は学んだことを披露し、自信を得ることができました。MAAD活動を通じた文化学習により、彼らが成長するだけではなく、地域の伝統文化の継承にも役立っています。

MAADとは?

子どもたちの個性を発揮させることを目指し、音楽(MUSIC)、芸術(ART)、農業(AGRICULTURE)、ダンス(DANCE)を学ぶ課外授業がMAADです。この授業を通して、子どもたちにジェンダー平等、人権、子どもの権利、歴史や文化を教えることができます。


文化プログラム

2-4補助教員の採用

学校でのMAAD活動を推進し、より多くの子どもたちの学習意欲を高め、能力を引き出すためには、MAAD活動を実践する教員の研修・養成が必要です。チェトナは新たに採用した補助教員に向けてのワークショップを開きました。彼らには補助教員としての役割、教育の質、ジェンダー平等についての説明が行われました。MAAD活動は生徒の能力を高めること以外にも、この活動をきっかけに他の教員の協力を得ることができ、学校運営がさらに円滑に進むようになるなど教育の質の向上にも貢献することができました。


農業の授業で使われる畑

2-5学校との架け橋 ブリッジスクールの運営

今年は、29人の男の子と37人の女の子、計66人がブリッジスクールに通いました。今年度末には、43人の生徒が、政府運営の通常学校に復学しました。ブリッジスクールの教員は独自の授業を行い、子どもたちに学ぶことの楽しさを伝えています。

ブリッジスクールとは ?

それまで読み書きをしたことがなかった子どもたちが、学校に通うようになっても授業についていけず、また農業労働に戻ってしまうケースがあります。こういった子どもたちの支援のための補習学校が「ブリッジスクール」です。


ブリッジスクールの子どもと教師

2-6学校への電力供給

地域で頻繁に起こる停電が、学業の妨げになっています。生徒たちが快適な学習環境で勉学に励めるように、チェトナはそのような状況を改善し、学校に2台の太陽光パネルを設置しました。太陽光からの電力供給により、学校の寮で生活する生徒は夜間でも快適な環境で学習を続けられるようになりました。


学校に設置された太陽光パネル

2-7トイレの改装

今年度は、女子高校でトイレの改装工事が完了しました。新しいトイレの衛生状態を維持するために、チェトナは学校の教員と生徒で構成される運営委員会を作りました。これは彼らの意識改革となり、子どもたちは水の使用に気を付け、清潔さを保つことの大切さを知ることができました。現在、350人全員の生徒が安全にトイレを使うことができています。


改装されたトイレ

2-8綿花栽培農家の子どもに必要なライフスキルの育成

教育を継続するのが困難で、職に就くことも難しい男女のライフスキルを育成するために、服の仕立ての訓練を行いました。今年度は63人の女性が半年間の訓練を受け、訓練を合格した際には合格証明書が与えられました。ほとんどの女性が、政府からの支援も受け、服の仕立ての仕事を自分たちで始めることができました。その他の女性も、近くの仕立て屋で働くことができています。


服を仕立てる女性