2021-2022 Chetna Organic からの活動報告
【特設】緊急支援実施の報告
支援対象地域内では2020年から2021年6月まで、新型コロナウイルスが現地の人々の生活に深刻な被害を与えました。
感染拡大の影響は多くの農家世帯に健康被害をもたらし、例年通りのペースで農作業を行うことができませんでした。
加えて、政府発令のロックダウンは農家の移動を制限し、他の地域で農業を営んでいた多くの農家たちは失業状態となりました。
これらが原因で農家世帯全体の収入が減少した結果、農家たちが次の農期に使う綿花種子を購入することができませんでした。
そのため今年度は、農家世帯が有機綿花栽培を継続できるよう、非遺伝子組み換え綿花種子を配布しました。
非遺伝子組み換え綿花種子の配布
新型コロナウイルスの感染拡大影響による収入減少で、綿花種子を購入する余裕のない農家世帯2,000軒(世帯人数にして約8,000人)を対象に、非遺伝子組み換え種子の綿花種子を配布しました。種子を配布する際には、種子処理(有機薬剤を種子に塗り、種子へのダメージを防ぐための加工)をするための説明会が開かれました。 この支援のおかげで、農家たちは今年度も有機農法を開始・継続することができ、有機農家資格を保持することができました。
綿花種子配布の結果、各世帯で500キロの綿花を収穫することができました。収穫した綿花はチェトナを通じて市場で販売されますが、今年度の市場での綿花買い取り価格は過去最高となりました。今年度の綿花最低価格は100キロ当たり6,025インドルピー(9,640円相当)でしたが、それを大きく上回る10,000インドルピー(16,000円相当)で売買されました
非遺伝子組み換え種子の配布と種子処理の様子
その他 現地から報告を受けた農業に関する情報 (インド週刊誌 INDIA TODAY からの追加情報含む)
インド国内では穀物不足への懸念が強まり、中央政府は米の買い取りを保証したうえで農家へ米の栽培を要請しました。他の地域と同じように、Telangana州の農家も政府買い取り分の米を保管していましたが、買い取りを申し立てた際に米の種類が問題になりました。他の地域とは違い、Telangana州では猛暑で乾燥した気候に米粒が破損しないよう収穫された米を(パーボイルドライスとして)加工します。その加工された米に対し、中央政府は他の地域で食べられない米は買い取れないと申し立てを拒否しました。中央政府のこの対応に、Telangana州内の農家だけではなく州政府も反対し、最終的にはデモ活動まで発生する事態となりました。
また、Telangana州では、パーム油 (調理などにつかう植物油)不足を受け、州政府は農家にパーム油生産を促進する農業施策を始めました。他の作物の栽培からパーム油の生産に切り替えた場合、その農家は政府からの補助金を受け取ることができます。
参考: INDIA TODAY: Telangana govt will procure paddy from state’s farmers, says CM KCR. (URL:https://tinyurl.com/yxwdlm2k)
今年度の活動は、インフラ整備が遅れた辺境にあり、政府の支援も十分に受けられないTelangana 州のAdilabad県とAsifabad県内の6つの地区、Odisha州のKalahandi 県、Bolangir県とRayagada県内の5つの地区が支援対象となり、計314の村、17,029人の農家に手を差し伸べることができました。化学薬品を大量に使用する慣行農法から、自然環境への負担と農家への健康被害を軽減し、綿と穀類による増収を見込める有機農業への転換を推進しています。継続的な支援活動の結果、現地農家の収入が増加し、貧困状態から抜け出すことができた農家が増加しています。
1有機農法への転換支援
今年度は、新たに1,000人の農家を受け入れ、有機農法への転換支援を受けた総農家数は17,029人となりました。耕作農地に、チェトナが考案した有機農法を取り入れることで、綿花を栽培する土壌の質改善と農家の収入増加を目指しました。
土壌の質改善は、有機農業をおこなうのに必要不可欠な要素です。これまでは農家の農業に関する知識不足と、行政の不適切な方針が原因で、土壌の質を酷く低下させていました。
そのため、チェトナは有機農法に関心を持つ農家に向けて研修を実施し、地域の土壌に適切であり、低コストで行うことができる様々な有機農法:ミミズ堆肥・家畜フン堆肥・有機栄養剤の作成・使用方法、バイオマス苗の育成方法を学びました。今年度は、支援地域全体で1,026トンの有機肥料と液体肥料が生産されました。
村での研修の様子
様々な有機農法を学ぶ研修の実施・有機農家の農地見学は、農家が新たな知識と経験を得ることができる機会となっており、彼(女)らが有機農法への転換をすすめるモチベーションを高めています。
支援を受けた農家たちは、様々な活動から得た自分の学びを農地で実践し、化学肥料や農薬にかかる農家の負担を大幅に削減することができたのです。この成功体験が有機農家としての自信を与えています。
有機農業へ転換した結果、農家の農作物の生産量も増加しました。今年度、プロジェクトに参加した各農家が、700キロの綿花を収穫することができました。
ミミズ堆肥の作成
1-1農家の研修と農地見学
チェトナは有機農法の導入で、土壌の質改善と農家の増収を見込んでいます。有機農法を今まで認知していなかった農家に有機農法のメリットを知ってもらうために、農家たちへのミーティング、農法研修、有機農家への見学イベントを実施しました。今年度は、農地見学に476人の農家が参加しました。
農家たちがこれから自立して有機農業を行えるように、研修が実施されました。干ばつや洪水など、実際に農家が直面した問題に基づいて考案されたこの研修は、農業で発生する様々な事象に対応可能です。農家は、①土地の準備 ②土起こし ③種子の収集 ④種子処理 ⑤種植え ⑥間作 ⑦芽かき ⑧畝づくり ⑨除草 ⑩除草準備 ⑪有機肥料の作成と使用方法を学びました。
有機農法研修の様子
1-2エコセンター
エコセンターでは、有機農法のモデルが展示されています。Telangana州内4か所に設置されているエコセンターは、直接支援を受けていない村の農家たちも有機農法のことを学ぶことができるプラットフォームの役割を担っています。
このように有機農法を知ってもらうための環境づくりが農家コミュニティでの有機農法転換への意識の醸成に繋がります。実際に、支援地域内では協力的で、有機農業に関心を持つ農家が、他の農家へ有機農法のメリットを共有し、有機農法への転換を後押しをしています。
エコセンターの展示
1-3有機農業研究・保全センター [Chetna Organic Research & Conservation Centre]
チェトナ有機農業研究・保全センター(CORCC)では、より良い有機農法の研究がおこなわれています。今年度は施設整備により、センターの機能が強化されました。灌漑施設を整備するために新たに井戸が作られ、水散布用のスプリンクラーの設置と草刈り機の購入で効率良く水を散布することができるようになりました。
さらに、センター内では、非遺伝子組み換え種(Non-GMO) の綿花の種子増殖や、野菜・穀物・豆類の栽培、バイオマス苗床の育成、有機堆肥の生産が行われました。
灌漑施設用に掘削された井戸
1-4シードバンクの設立
過去に、政府によって遺伝子組み換え種の種子を用いた農業が推し進められました。多くの遺伝子組み換え種子は、地域の土壌に対応しておらず、作物の成長を促進するために大量の化学農薬と殺虫剤が農地に投入されてきました。それでも発芽しない場合が多く、さらに土壌に染み付いた化学薬品が原因で綿花の収穫量も減少しました。
このような事態を変えるべく、チェトナは遺伝子組み換え種子を使わない有機農法への転換支援をおこなっています。しかしながら、地域には非遺伝子組み換えである地域原産の綿花種子が不足しており、いくつかの品種が絶滅の危機に瀕していました。そのため、これからも有機農業を継続するために地域原産の種子を保管し、種子の保全と増殖させることを目的としたシードバンクを設立しました。
PBPはこの活動への基金を拠出し、Telangana州とOdisha州にあるシードバンクでは、種子の増殖と品種の保存活動が継続されました。
シードバンクで保管されている種子
1-5キビの間作
綿花は1年に1回の栽培のため、次の農期までの間、農地ではキビが栽培されます。従来の綿花栽培のスケジュールに間作という要素を追加することで、農家は綿花栽培に支障をきたすことなく食料も確保することができます。チェトナの技術チームは定期的に農家たちを訪問しアドバイスを与えています。
キビは4列の畝につき1列栽培されており、農地1エーカー当たり75キロのキビを収穫することができました。ほとんどの農家が、収穫したキビを家庭用として消費し、余剰分は市場で販売しています。今年度は100キロ当たり3,500インドルピー(5,600円相当)でキビが販売されました。
キビの間作
1-6多様な生産システムの推進
Telangana州とOdisha州に住む農家の家族は、綿花農業以外に副収入を得ることができ生産活動をおこなっています。ヤギの飼育、養鶏や家庭菜園が農家世帯の生活の一部に組み込まれ、それらの活動による世帯収入の増加で農家の生活水準を底上げすることができました。各活動の詳細は以下の通りです。
a.ヤギの飼育
ヤギは短期間で繁殖させることができ、ヤギを育てている世帯はヤギの肉や乳といった栄養のある食糧を確保することができます。今年度は、支援地域内の20の農家世帯に、4匹のメスと1匹のオスのヤギのセットを支給しました。飼育したヤギを市場で販売し、必要な生活費の一部を稼ぐことができました。
ヤギの飼育
b.養鶏
今年度、50世帯を対象に1世帯あたりオスとメスのニワトリ計5匹を支給しました。各世帯では、ニワトリが産む卵と、鶏肉はタンパク質は豊富な食べ物として消費されています。また女性たちは、鶏肉と卵を市場で販売することができました。市場では卵は10インドルピー (16円相当) 、鶏肉は1キロで600インドルピー (960円相当)分の収入を得ることができました。
養鶏
c.家庭菜園
今年度、50世帯を対象に、裏庭での家庭菜園を行いました。彼女たちは、家庭菜園の説明会に参加した後、10種類の野菜の種が支給されました。育てた野菜は各世帯で消費される一方で、余剰分を市場で売りに出しました。今年度は、野菜の価格が前年度よりも10%高く、家庭菜園をした各世帯は、月750インドルピー (1,200円相当) 分の収入を得ることができました。
家庭菜園
1-7転換期間中である農家への創業支援
チェトナは、有機農法を積極的に学ぼうとする農家たちを応援しています。農家支援団体として、彼 (女) らのモチベーションを維持するために、有機農家であることを示す証明書や、その他の必要物資を支給しています。今年度は、新たに1,000人の農家が有機農法への転換支援の対象として受け入れられました。農家たちは、栽培期間前、栽培期間中、収穫期間後に有機農法を学ぶために研修を受け、有機農家としての質を確保するための内部監査・外部監査を完了しました。昨年度、転換1年目であったすべての農家が、転換2年目に突入する予定です。
外部監査の様子
1-8土壌試験
化学性の農薬と殺虫剤が浸み込んだ土壌を有機農業に適した状態へと改善するために、土壌試験を行いました。転換1年目である農家から農地の土壌サンプルを収集し、土壌の現状を知るために研究所で成分分析がされました。分析の結果、土壌が酸性であることが判明しました。チェトナの技術チームが土壌を中和するために、4トンの有機肥料、600リットルの有機液体肥料、800リットルの植物抽出液を農地に投入し、豆類の間作とおとり作物 (※2) の栽培を農家に勧めました。次の土壌試験は、転換3年目に再び行われる予定です。この試験で、農家たちが自身がおこなってきた有機農法のメリットを実感できることが期待されています。
※2 おとり作物…土壌内の害虫の繁殖を防ぐ役割を持つ作物
土壌分析機器の設置とオリエンテーション
土壌試験をおこなうスタッフ
2子どもたちの就学・復学・奨学支援
2-1奨学金の支給
昨年度は、政府の発令したロックダウンにより全ての教育機関が閉鎖されたため、奨学金を支給できませんでしたが、今年度は、50人の学生に奨学金を給付することができました。
現在、奨学金を受けとった子どもたちは、職業訓練校へ入学のほか、高等教育機関で芸術、生物科学、農業科学、コンピュータサイエンス、商学を専攻しています。
奨学金を受け取る子ども
2-2学校との架け橋 ブリッジスクールの運営(※4)
支援対象地域内で子どもの退学率の高い地域では、様々な理由が原因で学校から退学してしまった子どもたちが普通学級に復学できるように学習を継続するためのブリッジスクールが運営されています。
今年度は、105の子どもたちがブリッジスクールで授業を受けました。全員が普通学級に編入予定です。
※4 ブリッジスクールとは?
それまで読み書きをしたことがなかった子どもたちが、学校に通うようになっても授業についていけず、また農業労働に戻ってしまうケースがあります。こうした子どもたちを支援するための補習学校が「ブリッジスクール」です。
ブリッジスクールでのパソコンの授業
2-3補助教員の配置
学校では、MAAD活動 (※5) を通して生徒たちに、音楽、芸術、農業、ダンスの授業を行い、子どもたちの学習意欲を高めようとしています。MAAD活動の質を高めるために、補助教員を採用、派遣しています。補助教員は採用された後、十分な研修を受け、任地となる学校に派遣されます。現在、17校で補助教員が活躍しています。今年度は、新型コロナウイルスで学校が閉鎖されていたため、モバイルスクール(移動教室) として、補助教員が子どもたちの村を訪れ、授業を開講しました。このような状況の中、計850人の子どもたちが教育を受けることができました。
※5 MAADとは?
子どもたちの個性を発揮させることを目指し、音楽 (MUSIC) 、芸術 (ART) 、農業 (AGRICULTURE) 、ダンス (DANCE) の授業がMAADです。この授業を通して、子どもたちにジェンダー平等、人権、子どもの権利、歴史や文化の大切さを教えることができます。
補助教員による授業
2-4綿農家世帯の家族への職業訓練実施
綿農家世帯の世帯収入の増加を見込み、女性たちに服の仕立て屋となるための職業訓練を開講しました。今年度は、計60人の女性が職業訓練で服を仕立てる技術を学びました。そのうち10人が服の仕立て屋として起業し、毎月3,000〜4,500インドルピー(4,800円〜7,200円相当)分の収入を得ています。
服を仕立てる女性たち
※2022年3月31日時点でのレート 1インドルピー当たり1.6円で換算